型彫り放電加工(EDM:Electric Discharge Machining)は、切削加工では難しい複雑で深い形状や、高硬度材への高精度加工を実現できる、金型製作に欠かせない加工方法です。
型彫り放電加工とは?
加工する部分とや寸法の制御は、電極保持部のサーボ機構や、ワークを載せたテーブルの駆動機構をコンピュータにより作動させて行います。放電加工は、電気を通す素材であれば、焼き入れを施した硬い鋼材の加工も容易にできます。しかし、ワークと電極とのあいだに放電のための数ミクロンないし数十ミクロンの加工ギャップ(すき間)が必要となり、この点から、加工精度には限界が出てきます。
特徴とメリット
特徴 | 説明 |
---|---|
複雑形状の加工が可能 | 切削工具では届かない深部や鋭角も加工可能 |
高硬度材への対応 | 焼き入れ済みのSKDやSTAVAXなども加工可能 |
微細な仕上げが可能 | 微細放電条件で鏡面に近い面粗さも実現 |
電極形状に依存 | 加工形状は電極と同形状になるため、高精度設計が必要 |
主な使用用途(射出成形金型において)
加工部位 | 理由・目的 |
---|---|
キャビティ底部の複雑形状 | 切削工具では届かない深部を加工 |
鋭角コーナーやシャープな溝 | ワイヤやエンドミルでは角Rが残る部分に使用 |
微細なテクスチャ・文字彫刻 | ロゴマーク、品番などを高精度で彫り込む |
アンダーカット部(特殊スライド不可) | 構造制限により機械加工できない部位に対応 |
加工工程の流れ
(1)加工形状の設計(CAD):加工部分を抽出し、電極形状を設計
(2)電極の製作(銅・グラファイト):マシニングセンターで加工し、放電用ホルダーに取り付け
(3)電極位置合わせ:放電機にセットし、ワークと電極をミクロン単位で合わせる
(4)荒加工 → 中仕上げ → 仕上げ加工:条件を変えて複数回に分けて加工し、寸法精度と表面品質を向上
(5)洗浄・測定:加工後のスラッジ除去と、寸法測定で精度確認
使用する電極の種類と特徴
材質 | 特徴 | 用途 |
---|---|---|
銅 | 高い精度と良好な仕上げ | 精密仕上げ、薄肉加工に適する |
グラファイト | 軽くて加工しやすく、放電効率が高い | 荒加工や大きな形状向き |
銅タングステン | 耐摩耗性に優れ、微細形状でも変形しにくい | 高精度・微細加工に最適 |
加工時の注意点
注意点 | 解説 |
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電極摩耗の補正 | 加工中に電極が摩耗するため、加工深さや形状を補正計算する必要あり |
放電スラッジの排出 | スラッジ(削りカス)が残るとアーク放電・加工不良の原因に |
熱影響によるクラック | 深い加工ではワークに熱応力がかかるため、段階加工と冷却が必要 |
加工速度と表面粗さのバランス | 荒加工は早いが粗さが残る、仕上げは時間がかかるが綺麗な面が出る |
型彫り放電加工 vs ワイヤカットの使い分け
項目 | 型掘り放電加工 | ワイヤカット放電加工 |
---|---|---|
加工対象 | 内部形状(凹部) | 輪郭・外周形状(抜き形状) |
加工方向 | 上下方向から掘る | 平面での輪郭切断 |
電極の必要 | 必要(自作) | 不要(ワイヤ使用) |
加工精度 | 高精度だが摩耗補正が必要 | 非常に高精度、Rがワイヤ径依存 |
まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
使用目的 | キャビティ内形状、複雑凹部、ロゴ彫刻など |
使用電極 | 銅、グラファイト、銅タングステンなど |
メリット | 非接触、高硬度対応、微細加工が可能 |
注意点 | 摩耗補正、スラッジ管理、冷却対策 |
型彫り放電加工は、射出成形金型において高精度で複雑な内部構造の実現に不可欠な技術です。ワイヤ放電や切削との使い分けにより、最適な金型構造が可能になります。
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