なぜ「金型内部」を計測するのか

射出成形工程では、成形機の射出圧力・スクリュー速度・金型温度など多くのデータが取得できますが、それでも「金型内部で溶融樹脂がどう流動しているか」、また「どのタイミングで内部圧力が変化しているか」といった挙動は長年「ブラックボックス」とされてきました。
この「見えない挙動」を可視化し、品質・歩留まり・設備稼働率を改善するために、双葉電子工業の樹脂圧力計測システムが注目されています。
樹脂圧力計測システムの主な構成と機能

樹脂圧力計測システムは、金型内に設置した各種センサーと専用アンプ・計測ソフトウェアによって、金型内部で起こる挙動をリアルタイムで波形表示・解析可能にします。
現場における具体的な効果
・不良予兆の検出と検査工数の削減
良品時の波形を基準としておき、異常な波形が発生した時点でアラーム出力や、不良排出システムと連携させることで、ショートショット・オーバーパック・バリなどの不良を自動判定可能になります。これにより、検査工程にかかる時間・工数を大幅に削減できます。
・異なる環境下での条件出しの効率化
「技術者の勘と経験」に頼っていた成形条件決定プロセスを定量化できます。特に、海外生産の移管や新規成形機導入時など、条件出しの時間を短縮し、「良品時の波形」を別拠点でも再現することで、品質のばらつきを抑制できます。
・稼働率・設備寿命の向上
金型内部の圧力の変化を継続的にモニタリングすることで、摩耗・汚れ・ガス溜まりなどの兆候を早期に発見できます。結果として金型のオーバーホール周期が最適化され、長期的な稼働安定化に寄与します。
導入時に押さえておくべきこと
・センサー選定と設置
金型内に樹脂圧力計測センサーを設置するには、配線対応、金型改造、耐環境条件(高温・高圧)などのハードルがあります。双葉電子工業(株)では、センサー仕様や設置位置に関するサポートも提供されています。
・波形の「良品基準」設定
導入時には「基準波形」を取得し、そこから、許容範囲を設定することが重要です。技術者の経験値を数値化することで、再現性ある条件管理が可能になります。これは「技術の見える化」という点でも大きなポイントです。
・データの活用:リアルタイム監視&クラウド活用
MMS Cloudなどクラウド接続を活用することで、複数工場・複数機械で集めたデータを統合し、グローバルでの成形条件の標準化に貢献しています。
導入時の注意点と成功のためのポイント
- データ信号のノイズ対策:金型振動や配線干渉などが波形品質に影響するため、配線ルート設計・アース対策が必須
- 良品波形の蓄積と変化傾向の管理:初期値だけでなく、時間経過/金型磨耗による波形変化を記録しておくこと
- 現場技術者との併用運用:波形だけに頼らず、現場の「カン「・「コツ」を数値化する意図を共有すること
- ROIの明確化:導入コスト・人件費削減・不良削減など定量的な効果を事前に設定する
まとめ
射出成形における品質安定化・歩留まり改善・海外移管対応などの課題に対し、樹脂圧力計測システムは「金型内の挙動を可視化し、技術を数値として制御する」ための強力なツールです。特に、製造工程がグローバル化・多品種少量化していく中、「経験頼み」の技術から「データ駆動」の技術へ移行する鍵となります。
今後、金型設計・成形条件設計において、「金型内圧計測」という視点が標準仕様になる可能性が高く、この領域の知識・実践は成形技能士にとって大きな武器になるでしょう。
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