射出成形は、複雑形状の樹脂製品を高精度かつ大量に生産できる優れた加工方法ですが、その一方で多くの不良が発生しやすいプロセスでもあります。 特に以下の不良は、現場で頻出し、対策に多くの時間とコストがかかります。
- ウエルドライン
- 反り変形
- ヒケ
- ショートショット
- ボイド
- フローマーク
これらの不良は、単なる「現象」ではなく、樹脂流動・熱移動・圧力伝達・材料特性・金型構造といった複数の物理現象が複雑に絡み合って発生します。
本記事では、射出成形における主要不良を 「発生メカニズム」→「設計・金型・成形条件の対策」→「流動解析で何が分かるか」 という流れで体系的に深掘りします。
初心者にも理解しやすく、かつ技術者が読んでも納得できる深さを意識した、専門ブログ向けのロング記事です。
ウェルドライン
ウェルドラインとは
樹脂が複数の流れに分岐し、再び合流した際に形成される線状の痕跡です。 外観不良だけでなく、強度低下の原因にもなります。
発生しやすい箇所
ボス周り リブ周辺 開口部の両側 多点ゲートの合流部 薄肉部の合流点
発生メカニズムを深掘り
① 合流時の樹脂温度が低い 樹脂温度が低いと、合流面の溶着が弱くなり、線状の痕跡が残ります。
② 合流角度が鋭い 鋭角で合流すると、樹脂同士が正面衝突せず、滑るように接触するため溶着が弱くなります。
③ 圧力不足 合流部に十分な保圧が届かないと、溶着が不十分になります。
④ せん断熱が発生しにくい形状 流路が広い、肉厚が厚いなど、せん断速度が低い形状では温度が上がりにくい。
対策(深掘り版)
設計面の対策
- 合流角度を緩やかにする(理想は120°以上)
- リブやボスの位置を調整し、流れを分岐させない
- ゲート位置を変更し、合流点を目立たない位置へ移動
- 開口部周辺の肉厚を調整し、流れを均一化
成形条件の対策
- 樹脂温度を上げる(5〜15℃)
- 金型温度を上げる(特に合流部周辺)
- 射出速度を上げる(せん断熱で温度上昇)
- 保圧を適切に設定し、合流部に圧力を届ける
金型面の対策
- 合流部周辺の金型温度を局所的に上げる(ヒーター・バルブゲート)
- バルブゲートで流れを制御し、合流位置を変える
- ガスベントを追加し、空気溜まりを防ぐ
流動解析で分かること
- ウェルドラインの位置
- 合流時の樹脂温度
- 合流角度
- 圧力分布
- ゲート位置変更による改善効果
- 合流部の強度予測(繊維配向解析)
ウェルドラインは解析で最も予測しやすい不良のひとつです。
反り変形
そりとは
成形品が冷却・収縮の過程で変形し、平面や直線が歪む現象です。 外観不良だけでなく、組付け不良の原因にもなります。
発生メカニズム(深掘り版)
① 肉厚差による収縮差 厚肉部は冷却が遅く収縮量が大きい。薄肉部は冷却が早く収縮量が小さい。 → この差が反りの主因。
② 温度ムラ 金型温度の不均一、冷却回路の偏りが原因。 → 温度差が大きいほど反りが増加。
③ 繊維配向(強化樹脂の場合) 繊維方向に沿って収縮が小さくなるため異方性が発生。 → GF30%などの材料では特に顕著。
④ 保圧不足 圧力が届かない部分は収縮が大きくなる。 → ゲートから遠い部分ほど反りやすい。
対策(深掘り版)
設計面
- 肉厚を均一にする
- リブの配置を最適化する
- 繊維配向を考慮した形状設計
- ボス周りの肉厚を調整
成形条件
- 金型温度を均一化
- 冷却時間を適切に設定
- 保圧を適切に設定
- 射出速度を調整し温度ムラを減らす
金型面
- 冷却回路の最適化(コンフォーマル冷却など)
- 金型材質の選定(熱伝導率の高い材質)
- 金型補正(反り量を逆方向に補正)
流動解析で分かること
- 変形量と変形方向
- 温度分布
- 収縮量
- 繊維配向
- 金型補正の方向性
- 冷却回路の最適化案
そり解析は高度ですが、最も導入効果が大きい解析です。
ヒケ
ヒケとは
厚肉部やリブ周辺に発生する凹み。外観不良として最も目立ちやすい。
発生メカニズム(深掘り版)
- 厚肉部の冷却が遅い
- 収縮量が大きい
- 保圧が届かない
- ゲートシールが早い
- リブの付け根に応力集中が発生
対策(深掘り版)
■ 設計
- 肉厚を薄くする
- リブ厚みを0.5〜0.7tにする
- ボス周りの肉厚を均一化
- コアバック構造を検討
■ 成形条件
- 保圧時間を延ばす
- 保圧値を上げる
- 金型温度を上げる
- 射出速度を調整
流動解析で分かること
- 体積収縮量
- 保圧の伝わり方
- ゲートシール時間
- ヒケ発生の予測
ショートショット
ショートショットとは
樹脂が型内に充填しきれず、成形品が欠ける不良。
発生メカニズム(深掘り版)
- 樹脂温度が低い
- 金型温度が低い
- 射出速度が遅い
- ゲートが小さい
- 流路が長い
- 空気抜き不足
- 圧力損失が大きい
対策
- 樹脂温度を上げる
- 金型温度を上げる
- 射出速度を上げる
- ゲート径を大きくする
- エアベントを追加
- ランナー径を見直す
流動解析で分かること
- 充填不足の箇所
- 圧力損失
- 温度低下の箇所
- ゲート位置変更の効果
ボイド
ボイドとは
内部に発生する空洞。外観では分からないことも多い。
発生メカニズム
- 厚肉部の収縮
- 保圧不足
- ガス抜け不足
- 冷却ムラ
対策
- 肉厚を均一化
- 保圧を適切に設定
- 冷却を均一化
- ガスベントの追加
流動解析で分かること
- 体積収縮
- 圧力伝達
- ボイド発生の可能性
フローマーク
フローマークとは
樹脂の流れ跡が表面に波状に現れる不良。
発生メカニズム
- 樹脂温度が低い
- 金型温度が低い
- 射出速度が遅い
- ゲート付近の乱流
対策
- 樹脂温度を上げる
- 金型温度を上げる
- 射出速度を上げる
- ゲート形状を最適化
まとめ
射出成形における不良は、単なる現象ではなく、 樹脂流動・熱移動・圧力伝達・材料特性・金型構造 といった複数の物理現象が複雑に絡み合って発生します。
本記事で紹介した主要不良は、いずれも流動解析によって
- 発生箇所
- 発生原因
- 改善効果
を事前に予測できます。
特に、
- ウェルドライン
- そり
- ヒケ
- ショートショット
は解析の効果が大きく、金型設計段階での対策が最も重要です。
流動解析を活用することで、 試作回数の削減・金型修正の低減・成形条件の最適化 が可能となり、製造プロセス全体の効率化に大きく貢献します。
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