射出成形金型の組立調整と角合わせは、金型や成形品の品質を左右する重要なプロセスです。精密に加工された部品も、最後の組み付け精度が不適切だと寸法不良・外観不良・成形トラブルの原因になります。
今回は、金型設計の基本、「PL(パーティングライン)」や「抜き勾配」をふまえた精度設計の背景も織り交ぜながら、組立調整工程の手順とコツを解説します。初心者向けの図解や具体例、ベテラン向けの技術視点も盛り込みました。
組立調整とは?
- 金型加工部品を組み上げた後、動作と寸法精度を調整する作業
- 射出成形金型においては、PL面合わせ、芯ズレ修正、可動部確認などが含まれ、品質に直結
- 単なる「組立」ではなく、「調整」を含めた高度な現場技術です
角合わせ(PL面合わせ)の本質
PL(パーティングライン)は金型の固定側と可動側の合わせ目。ここが合わないとバリ、寸法ズレ、離型不良など多くのトラブルが発生します 。
- ガスベント設計とも密接で、PLからガスを逃がす構造設計が基本
- 抜き勾配が不足すると、製品に引っ掛かりが生じる
組立調整の実務ステップ
清掃・部品チェック
- チップや油分があるとわずかなズレも誘発
- 部品点数チェック → 図面通りか確認
仮組み&位置決めリング装着
- ロケーティングリングを使って金型位置を正確に合わせる
PL面の角合わせ(最重要工程)
- 両面にインキ塗布、型閉じ後開放
- 見えた着色部分が干渉面(強当たり)
- 隙間には光漏れがないか透過検査
- 強い当たり部をラッピングで微調整
- 繰り返してミクロン単位へ最適化
芯ズレ・高さの精度確認
- キャビ・コアの位置をダイヤルゲージやノギスで測定
- スライド部の渋み、ガイドの拾い具合も確認
可動部・スライド・エジェクタなどの動作チェック
- スムーズ動作と脱着のスキマ確認
- リフターやスライドに角でのアンダーカット形状との一致確認
最終確認
- PL面密着再チェック、冷却配管・ヒーター・ベント整合性
- 成形試作時に不良要因が起きにくい状態に仕上げます
ベテランの視点:精度を高めるコツ
- 組立専用グリス(耐熱グリス)による可動部保護
- PL面やスライド摺動面は研磨/光学干渉フィルムで可視化
- エジェクタ・リフターの最大ストロークで確認
- ダイヤルゲージによる数値記録と履歴管理
よくあるトラブルとその対策
問題 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
バリ多発 | PLズレ、ガスベント不良 | 角合わせ+ベント清掃 |
離型不良 | 抜き勾配不足、面ズレ | 面研+ラッピングで修正 |
スライドがたつき | 組立緩みor歪み | ボルト締結トルク再確認 |
成形寸法不良 | 芯ズレ | 再調整orブッシュ調整 |
技術進化:組立調整に効く設計要素
- 位置決めリングでセットアップ精度UP
- 精度高いはめ合い穴(H5/H6)+ブッシュ構造で微調整可能
- 角はR処理で切削性・離型性UP、ラッピングも容易
初心者が覚えておくべきチェックリスト
- 全部品が揃っているか
- 清掃済みか
- インキチェックでPLが隙間なしか
- 芯ズレは0.01mm以内か
- スライド・リフター動作は滑らかか
- 排気・冷却・ヒーター穴が正常に機能するか
まとめ:組立調整は“金型の仕上げ工程”
- PL合わせは精度の最終砦
- 面研・ラッピングには手技と感覚が不可欠
- 組立調整は金型技術者の「現場力」の真価を映す工程です
初心者は基礎から順に経験を積み、ベテランは設計から逆算した精度追求を。金型は組立時に完成すると言っても過言ではありません。
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