射出成形金型の技術力を高めるには、SI(国際単位系)の正確な理解とその応用が不可欠です。特に、金型設計・加工・成形条件では、「長さ」「圧力」「力」「温度」などの単位が現場品質に直結します。
本記事では、SI単位を知ることで成形品質がどう向上するか、実例とともに解説します。
SI単位とは? なぜ金型技術で重要?
SI単位は国際的に統一された単位系で、測定や設計の共通言語。
- 長さ:m、mm
- 圧力:Pa(パスカル)、MPa
- 力:N(ニュートン)、kN
- 温度:K(ケルビン)、℃
日本の成形現場では、従来の単位(kgf, kgf/cm²)も併用されます。しかし、国際基準(JIS Z 8000-1)ではSI優先が推奨されており、金型設計書や成形条件もMPaやkNで書くのが主流です 。
金型設計と加工でのSI単位活用
長さと寸法公差
設計図面では、mm単位で寸法指定が基本。
国際規格DIN 16742では、精密金型の許容公差が±0.127 mm(ルーズ)、±0.05 mm(高精度)、±0.025 mm(超精密)と定義されています 。
実務適用の目安
- 薄肉・微細形状:±0.05 mm
- 一般構造部:±0.1〜0.2 mm
抜き勾配と面精度
金型のパーティングライン(PL)面には0.02〜0.05 mmの隙間許容が安全。面研時にはシクネスゲージ(µm単位)で測定します。
成形条件における圧力と力の単位
射出圧力と保圧圧
射出成形機の圧力設定は、MPa単位が標準です。
例えば「10 MPa」であれば、等価で約102 kgf/cm² 。圧力管理を誤ると以下のような不良が発生します。
- 過剰:型破損やバリ
- 不足:ショート、ヒケ
型締力
型閉めにはkN=1000 N単位を使用します。たとえば、200 kN=2万 kgf相当です 。必要型締力は、キャビティ面積 × 射出圧力から簡易算出可能です。
成形品の寸法許容とSI単位
成形品の寸法はmm単位で評価し、±0.1 mm(普通)、±0.025 mm(高精度治具部品)などが目安です 。
注意点:薄肉部分は収縮率ゆえに末端部ほど寸法ずれが大きくなるため、100 mmで±0.1 mmでも製品設計では±0.05 mm設計が望ましい場合もあります。
温度と熱に関するSI単位
金型温調には℃あるいはK(ケルビン)が使用されます。
- 冷却水:20〜90 ℃
- 金型本体:80〜120 ℃(PCなど透明部品の成形時)
実務ポイント:水温が±1 ℃差でも品質に影響。均一性と再現性が重要です。
SI単位で工程を“見える化”
圧力グラフの可視化
制御装置のデータをMPaで記録 → 常時監視と異常察知。
寸法の変動ログ
測定結果を図示化し、公差トレンドを記録。異常傾向を初期に検知。
温度プロファイル管理
金型ヒーターと冷却を温度グラフで可視化し、成形の再現性を高める。
SI単位の換算早見表(現場用)
単位 | SI単位 | 換算値 |
---|---|---|
1 kgf | 9.80665 N | 約9.81 N |
1 kgf/cm² | 98,066.5 Pa | 約0.098 MPa |
1 kN | 1000 N | - |
1 MPa | 1,000,000 Pa | 約10.2 kgf/cm² |
実務QA:よくある疑問と回答
Q1: kgf/cm²とMPa、どっちを使うべき?
A:SI(MPa)主体でOK。古い図面にkgf/cm²が残る場合は、換算して表記一致すべし。
Q2: 公差指定は±0.1 mmで十分?
A:製品用途次第。治具部品などは±0.025 mmクラスが要求される場合あり。DIN 16742を参考に 。
まとめ:SI単位は“精度の共通語”
- 設計/加工/成形/検査の全工程でSI単位を統一すると、ミスやコミュニケーション齟齬が減少。
- 精度記録やグラフといった「見える化」で、品質と再現性を底上げできます。
- 現場に精度の意識が文化として根付くと、品質改善の取り組みも自然と進んでいきます。
コメント