射出成形における金型の組立調整は、単なる「組み立て作業」ではなく、製品の品質を左右する極めて重要な工程です。どれほど高精度な加工が施された金型でも、最終的な調整が不十分であれば、成形品に寸法不良や外観不良が発生してしまいます。
本記事では、「金型組立調整」の目的や工程、調整で求められる技術、そして現場で注意すべきポイントについて解説します。新規金型の立ち上げ時や修理後の調整作業の参考にしてください。
金型組立調整とは何か?
金型組立調整とは、加工が終わった各部品を組み上げるだけでなく、金型全体として正しく機能するように「すり合わせ」や「隙間調整」などの微細な調整を行う工程を指します。
この工程で重要視されるのは以下の点です。
- 各可動部がスムーズに動作するか
- パーティングラインに隙間や段差がないか
- 成形品の寸法や面精度に影響する部位が正しく合わせられているか
つまり、ただの「組み立て」ではなく、金型全体の精度と成形品質を決定づける仕上げ調整のような位置づけなのです。
金型組立調整の主な目的
金型組立調整の目的は以下の通りです。
成形品の品質確保
調整が不十分だと、パーティングラインのバリや段差、変形、寸法ズレなどの不良が発生します。
金型の耐久性確保
摺動部の動きが悪ければ焼き付きや破損の原因に。調整によって適切なクリアランスと潤滑状態を確保します。
メンテナンス性の向上
分解や再組立がスムーズにできるように、調整段階で無理のない構造や組付け方法にしておくことも重要です。
組立調整の工程とポイント
以下は実際の金型組立調整の代表的な工程です。
部品の検品・清掃
まずは、加工されたすべての金型部品が図面通りに仕上がっているか、また異物やバリが残っていないかを確認します。組立前のクリーニングも重要です。
ガイドピン・ブッシュの挿入と調整
金型の位置決めを担うガイドピンとブッシュを取り付け、可動側と固定側が正しく勘合するか確認します。わずかなズレがバリの原因になるため、摺動チェックを丁寧に行います。
コアとキャビティの合わせ
成形品を形成する最も重要な部品であるコア・キャビティ部を組み合わせ、接触面の段差、隙間、すり合わせ状況をチェックします。青ニスや測定ゲージを用いて微調整を行うケースも多いです。
可動部(スライド、リフター、エジェクタ等)の調整
可動部がスムーズに動くか、異音や抵抗がないかを確認しながら、摺動部の当たりや潤滑状態を調整します。
パーティングライン(PL)チェック
PLにバリや段差が出ないように、全周にわたって光の透過や段差を確認しながら摺り合わせを行います。
締結と最終チェック
すべての部品を本締めし、金型を閉じてガタやズレ、部品干渉がないかを確認。可動部を動かして機構的な動作確認も忘れずに行います。
現場で求められる技能
金型の組立調整には、高度な観察力・判断力・経験が求められます。たとえば、以下のような技能が重要です。
- 微小な段差や隙間を見極める感覚
- 異常を音や感触で察知する能力
- すり合わせに使う工具の使いこなし(ヤスリ、砥石、測定具など)
- 製品に悪影響を与えない調整手順の理解
ベテラン技能者の目視や手触りによる判断が重要になる場面も多く、技能伝承が大切な分野でもあります。
まとめ:金型調整は製品品質の最終関門
金型の組立調整は、製品の寸法精度、外観、成形性を最終的に決定する大切な工程です。いわば、全体の完成度を左右する「最後の砦」。
「組めば終わり」ではなく、「組んでからが勝負」と言える工程だからこそ、ひとつひとつの確認と調整作業を丁寧に積み重ねることが求められます。
金型製作に携わる方はもちろん、成形現場の技能者や金型の保全に関わる方にとっても、調整作業の重要性を深く理解しておくことが、品質向上への第一歩となるでしょう。
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