ワイヤカット放電加工(Wire EDM)は、金型部品の高精度かつ複雑な輪郭形状を加工するために欠かせない技術です。特に、切削加工では困難な極小コーナー、深い溝、嵌合部などの加工に有効です。
ワイヤカット放電加工とは?
細いワイヤ(通常は真鍮やモリブデン)を電極とし、ワーク(鋼材)との間に火花放電を発生させて材料を除去する加工方法です。非接触加工のため、工具の摩耗がなく、非常に高精度で鋭利な形状が実現できます。
特徴とメリット
特徴 | 説明 |
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高精度 | ミクロン単位の寸法精度(±2μm程度)を実現可能 |
高硬度材にも対応 | 焼き入れ後の鋼材(HRC60以上)も加工可能 |
複雑形状加工に強い | 微細なスリット、コーナーRのない内角なども加工可 |
かからないかからない | 非接触なので歪みや変形が少ない |
主な使用用途(射出成形金型において)
加工対象 | 加工理由 |
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コアピン・パンチの輪郭加工 | 精密な形状が必要なため |
インサート部品の嵌合部 | 高精度のクリアランスを確保 |
スライド部のスリット加工 | 極小・深溝の加工が可能 |
エジェクタープレート等の部品形状切り出し | プレートごとの仕上げ加工に活用 |
加工の流れと工程
(1)CAD/CAMデータの準備: 加工形状をCADで設計し、CAMで加工経路を作成
(2)ワークの取り付け:ワイヤカット機のチャックに材料を固定(平行・水平出し)
(3)ワイヤ張力・放電条件の設定:加工材質に応じて電流・パルス幅・加工速度を調整
(4)荒加工→中仕上げ→仕上げ加工:多段階で加工し、寸法精度・表面粗さを向上
(5)洗浄・測定:加工面の異物除去、寸法測定で精度確認
加工上の注意点
注意点 | 解説 |
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ワークの熱変形 | 長時間放電により局所的に熱が加わるため、冷却と張力調整が重要 |
コーナーRの最小値 | ワイヤ径の半分が理論的な最小Rとなる(例:ワイヤ径0.2mm→R0.1) |
加工時間が長い | 高精度ほど時間がかかるため、スケジュール管理が必要 |
ワークの固定方法 | クランプ不良は精度不良の原因に。特に細長形状は用注意 |
よく使われる条件設定例(参考)
材質 | 使用ワイヤ | 加工電流 | 精度目安 |
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SKD11(焼き入れ) | 真鍮φ0.25 | 中電流(荒→仕上げ) | ±5μm~ |
STAVAX | モリブデン | 微細パルス制御 | ±2~3μm |
HPM1(非焼き入れ) | 真鍮φ0.3 | 高速条件 | ±10μm程度(荒加工向け) |
まとめ
ポイント | 内容 |
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加工の目的 | 高精度形状、焼き入れ材の切断、微細加工 |
適用部品 | コア、ピン、スライド部、インサート部など |
メリット | 歪みなし、高精度、複雑形状対応可能 |
注意点 | 加工時間、ワイヤ径・固定方法に配慮 |
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